「ハイ、ハイ……」
3国のグランドカンパニー将校の剣幕に、ミンフィリアさんが、やれやれといった体で肩を竦めた。
私が、蛮神を退けたというニュースは、あっという間に3国に知れ渡ったらしい。
常に、優秀な冒険者を欲しがっている、各国のグランドカンパニーからすれば、蛮神を退けたというバリューをもつ、言わば「英雄の卵」の様な人材は、何としてでも欲しいらしく、他国に出し抜かれまいと、挙って駆けつけてきたという事みたい。
たとえ、それが、私のような、まだ、駆け出しの冒険者の私であったとしても。
うーん…グランドカンパニーかぁ…。
「難しく考える必要はないわ。加入したグランドカンパニーが合わなかったとしても、あとで移籍できるから、気楽に考えるといいわよ」
難色を示す私の態度を見て、ミンフィリアさんが、助け舟を出してくれる。
そうは言うものの、私は冒険者になりたいのであって、軍人になる気はないんだけど…。
「組織に縛られるのは嫌って考え方もあると思うけど、わたしは、あなたが、いずれかのグランドカンパニーに加入することをお勧めするわ」
私の心中を察したミンフィリアさんが、説くように告げてきた。
「……大きな力を持つ人間がフラフラとしていると、いろいろなことが起こるものよ。それも「悪いこと」が多くね。あなたほどの能力があれば、どこか大きな組織に所属しているべきなのよ。ほかでもない、あなた自身を守るために」
うーん。そういうものなのかしら……。
「ちょうど、「カルテノー戦没者追悼式典」が、各地で行われるし、各国の盟主の演説を聞いてからでも遅くはないわ。ゆっくり考えてみて」
とりあえず、後ろに控えてる将校さん達の視線も痛いし、その言葉に乗っかる事にして、私は返事を待ってもらうことにした。
その間に、進退も含めて考えなくっちゃね。
「聞け! 誇り高き海の⺠よ! 思い起こせ! 魂揺さぶる我らの旗を!」
数多く集まった人の中、リムサ・ロミンサの盟主、メルヴィブ提督の演説が始まった。
建国の話から、5年前のガレマール帝国との闘い、そして第七霊災へと話は進んで行き、そこで、犠牲になった人達への黙祷へと進む。
「メルウィブ提督の後ろ……。リムサ・ロミンサの国旗を見てごらん」
その時、銀髪の少年と少女が話しかけてきた。
……どこかで見たことあるような……?
「「龍船旗」と呼ばれる模様だ。赤は犠牲となった仲間たちの血を、黑のロングシップは海賊船を意味しているんだよ」
「へぇ。知らなかった…」
改めて、リムサ・ロミンサの国旗を見上げてみる。
血の海に浮かぶ海賊船……そう聞くと、怖い国旗だけれど、たぶん、先人の犠牲の上に成り立っていることを忘れないための意匠なんだろう。
そんなことを考えている間にも、提督の演説は進んで行く。
その中で、リムサ・ロミンサが抱える蛮神問題についての言及もあった。
テンパードになった人達の姿を思い出して、すこし、胸が疼く。
「誇り高き海の⺠よ! その力、その技術、その知識を、今一度集結せよ! 我々は、ひとつ真紅の旗の下に生きる、刎頚の友である!」
蛮神問題、帝国問題、内政問題に、皆で力を合わせて立ち向かっていこうという力強い宣言で、提督の演説は締めくくられた。
「私はアルフィノと言う。彼女は、アリゼーだ。私たちは、この「カルテノー戦没者追悼式典」を見て回っているのさ」
さっき話しかけてきた2人が、改めて話しかけてきた。
なんでも、彼らも、追悼式典を見て回っているのだという。
「リムサ・ロミンサは、メルヴィブ提督の言っていた通り、2つの蛮神問題、ガレマール帝国の問題、国内の海賊問題と、情勢が非常に不安定な状態だ」
リムサ・ロミンサの国旗を仰ぎ見ながら、アルフィノくんが話を進める。
彼が言うには、リムサ・ロミンサは、ガレマール帝国の侵略を阻止するために、蛮神問題、海賊問題を解決して、一致団結して事に当たりたいらしい。
その為に、たとえ、国旗の赤をさらに濃くする結果になったとしても、蛮族たちを力ずくで排除するだろうとも。
最後に、彼は、私のような冒険者が、黒渦団に加入することを期待しているだろうと告げ、次の式典に参加するため去っていったのだった。
血を血で洗う。
彼を見送りながら、そんな言葉が頭を過るのだった。